遺言の脆弱性について
生前対策・相続対策の方法として最もポピュラーな「遺言」ですが、遺言にも次のような弱点があります。
(遺言の弱点 その1・・・簡単に書き換えられてしまう!?)
遺言者(遺言を書いた人)は、いつでも、何度でも、遺言を書き換えることができます。これは遺言の利点であると同時に、弱点でもあります。「全財産を長男に相続させる」と遺言書に書いたあとで、その長男が親不孝者になり非行の限りをつくした、という場合は、遺言書を書き換えるのが当然です。
しかし現実には、親孝行の長男に対し、財産を横取りしようとたくらむ人たち(例えば後妻業の女、親不孝の長女、悪徳宗教団体など)によってお父さんがそそのかされ、遺言が書き換えられてしまう、ということの方が多いです。
(遺言の弱点 その2・・・相続人全員の合意で遺言が反故にされてしまう)
親が心を込めて書いた遺言書であっても、相続人全員の合意で「遺言書によらず遺産分割協議で分割する」と決めれば、そちらが優先されてしまいます(判例)。「相続人全員の合意ならいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、じっさいは「いちばん声の大きい相続人」の意向に引きずられる形で「相続人全員の合意」とされてしまいます。親がいちばん守ってあげたかった「声の小さい、やさしい相続人」の利益は無視されてしまいます。
(遺言の弱点 その3・・・成年後見人によって遺言が葬られてしまう)
親が「この不動産は長男に」、「この銀行口座の預金は長女に」などと遺言書に書いたとしても、親が認知症になって裁判所で選ばれた弁護士などが必要と判断すれば、不動産は売却され、銀行預金は成年後見人の預り金口座に入り、あるいは後見制度支援信託により信託銀行の口座に移されてしまいます。そうなった後で親が亡くなった場合、もはや遺言書で指定した形の財産はないので、あとは遺産分割協議によるほかありません。
上記のような「遺言の脆弱性」に対し、家族信託の場合は、受託者となった家族に名義が移り、受託者が排他的な管理処分権限を取得し、親が亡くなった場合も信託契約の定めに従って財産が承継されるので、親の願いをより確実にかなえることができます。この点で遺言よりも家族信託の方が強力だといえます。