高齢の不動産オーナーの認知症対策
【状況】
85歳のXさんは多数の土地建物を所有しており、多額の相続税発生が見込まれることから、今後数年かけて、各種の相続税対策を実行したいと考えています。しかし、長期計画なので、もしも途中でXさんが認知症になり判断能力を失ってしまうと、計画がとん挫してしまうおそれがあります。なお、Xさんの妻Yはすでに亡く、子供は長男A(57歳・Xと同居)、長女B(55歳)、次女C(51歳)の3人。 長女B及び次女Cは、すでにXさんから多額の生前贈与を受けているため、X死亡時には遺産の全部を長男Aが受け継ぐことに同意しています。
【家族信託の設計】
父Xさんの不動産及び一定額の金銭を長男Aさんに信託します。
父Xさんが死亡した時点で信託は終了し、信託していた財産は名実ともに長男Aさんの所有となります。
※ もしも父Xさんよりも先に長男Aさんが死亡したときは、長男Aさんの子(Xさんの孫)が受託者の地位を引き継ぎ、その後父Xさんの死亡により信託は終了して財産はXさんの孫のものになります。
【家族信託を行うメリット】
信託により、不動産・金銭の名義は全て長男Aさんに移転します。
しかし、自益信託(委託者=受益者)なので、贈与税・不動産取得税は発生しません。
信託契約締結後直ちに、長男Aさんによる財産管理がスタートし、父Xさんは面倒な手続に係わらなくて済むので、気が楽になります。
父Xさんが今後、悪徳商法や詐欺の被害に遭い財産を失う、あるいは後妻業の女や先物取引、悪徳宗教団体に財産を取られる、という心配はなくなります。
もしも今後父Xさんが認知症になり判断能力を失ったとしても、長男Aさんはそれまでと変わらず財産管理・相続対策を続けていけます。
信託契約締結前に家族全員の同意を取り付けたうえで信託契約を締結しているので、父Xさん死亡後も遺産争いが発生するおそれはなく、円満に資産の承継がなされます。
・・・当初の受益者の死亡により、その受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託
これにより、遺言では実現不可能であった、親から子に、子から孫に、という数世代にわたる財産承継を定めておくことが可能となった
(=戦前の家督相続を現代において実現できる。)
なぜこのような連続指定が可能なのか
<民法の世界>
…所有権絶対の原則(=人は、自分の所有物を、誰からも邪魔されず、自由に使用・収益・処分できる、という原則)
→父から遺言により財産を取得した人は、新たな所有者となるので、
亡父の「想い」に拘束されることなく、自由に財産を処分できる。
<信託法の世界>
…一つの所有権が、名義と管理は受託者に、収益権は受益者に、それぞれ分離して帰属するのが信託。その結果、受益者が有するのは受益権という債権(受託者に対して「利益をよこせ」と言える権利)ということになる。絶対的な「所有権」と違い、「債権」には契約でいろいろな制約を課すことができる(契約自由の原則)ので、その帰属先も連続指定ができる。